2017年1月24日火曜日

KIITOの建物は神戸のレガシー


みなさんは、KIITOを知っていますか?
デザイン・クリエイティブセンター神戸のことです。「みんながクリエイティブになる。そんな時代の中心になる」とか「ひと、まち、せかいの、センターになる」と、ワクワクドキドキ感満載の、よくわからない、けど、楽しい!みたいなところです。今日は、そのKIITOの建物についてレポートします。


 
館内にはいろいろな展示があってたのしい!

モダン神戸を象徴する歴史的建造物があちこちに

KIITOができたのは2012年8月からと、つい最近の話ですが、この建物はなんと、1927年に、神戸市立生糸検査所として作られました。
1927年に輸出生糸の検査を行う施設として建設され、1932年にこの建物のとなりに建設された同検査所新館と合わせて戦前期日本の近代建築として、また近代神戸の発展を象徴して、建築史上高い価値を得ています。この界隈にはこの建物だけでなく、神戸税関や、三菱倉庫、三井倉庫、川西倉庫などの建造物とともに、昭和初期に国際貿易港として躍進した神戸港の近代化遺産が並び立つ、地味ながらもとってもレガシーな場所。またこのエリアは近代神戸発祥の地と言える旧居留地地区に隣接していて、神戸市民にとっても、神戸を訪れる観光客にとっても、神戸の歴史が肌で感じられる場所です。

明治時代の日本の先端産業「生糸」

ところで、KIITOというネーミングの元にもなっている「生糸」。「生糸検査所?」ナニそれ??ですが、いったいなんなんでしょう。
 自動車や家電製品、マンガにポケモンと、今日、多少の陰りはあるけれども、世界に冠たるものづくり大国として立派に成長した日本ですが、それはここ2〜30年前からのハナシ。世界に向けて国を開いた(いや開かされた)ものの、なんとか西欧列強と肩を並べるべく必死だったニッポン。海外からやってくる上等舶来ものにうっとりびっくりするばっか。海外に向けて「どんなもんだい!」と胸を張れる製品はさほど多くはありませんでした。そう、そこで生糸が登場です。「ニッポンの絹糸はどうやらよろしおまっせ」そんな噂が海外から偏西風に乗ってやってきた。そこで、時の政府は生糸を最重要輸出産物と位置づけ、品質向上を目指したのです。そして、横浜と神戸に生糸検査所が置かれ、1905年にはイタリアを、1909年には中国のそれを上回り、世界最大の生糸輸出国としての地位を確立しました!だから、20世紀しょっぱなのニッポンにとって、生糸の製造やら輸出やらは先端産業だった。
 生糸の輸出は当初ほとんどが横浜港経由でしたが、大正期に入ると関西生糸市場が盛んになり、さらに1923年の関東大震災により横浜港の機能が麻痺状態になったため、神戸における生糸取引、輸出業務に対する期待が高まり、全国の製糸業者は生糸検査所の設置を神戸市に要請。神戸市立生糸検査所が誕生したのです。





蚕の頭部がテラコッタ!?ナンテコッタ!

神戸市立生糸検査所は、鉄筋コンクリート造地上4階地下1階建てで、神戸港における生糸の輸出量と将来の増加を考慮して建築面積は2369平方メートルと、けっこう大きな建物です。オフィスビルとしての機能性を保持しながら、外観が単調に流れることのないよう、ファサード(主要立面)をゴシック調(12~15世紀の西ヨーロッパの建築)にまとめ上げたものといえます。すなわち、ファサードの9つの柱間をすべて連続する腰高の窓とし、その窓面を壁面から後退させずにほぼ同一とすることで採光を確保しています。この壁面に太さの異なる2種のマリオン(細い方立て)をリズミカルに付加することでゴシック調の雰囲気をまとわせ、さらに中央玄関の両端で4層を貫いてさらに上方に伸びる八角形断面の柱とし、尖頭アーチやテラコッタ(焼き物)装飾を組み合わせるなど、装飾的要素を玄関周辺に集中させることで建物に格式を与え、全体を垂直線を強調する特徴をもつチューダー・ゴシック様式(イギリスの国会議事堂など)でまとめられています…。と、よくわかりませんが、とにかく、おしゃれっ!昨日今日できた建物など、この建物に比べると小便小僧みたいなもんです。
 このテラコッタ(焼き物)装飾は、魔除けではありません。黄金の生糸を吐き出す蚕の頭部を模していると伝えられています。この建物にゴシック様式が採用されたのは、神戸の玄関口たる神戸港の施設としての、加えて日本の輸出額の首座を誇る生糸の高品質を保証する機関の施設としての威厳を与えようとする意図があったらしい。神戸税関と対面する場所にこの検査所が建ったことで木造平屋の港湾倉庫が並ぶ中に新築庁舎が対峙するという、新港地区にふさわしい壮観を呈することになりました。
 ちなみに、旧神戸市立生糸検査所の新築が企図された大正末期の日本の建築界では、ゼツェシオン(分離派)と呼ばれる19 世紀末のドイツ、オーストリアに発する様式が流行していました。対面する神戸税関には、この要素が強いです。

ホンモノの神戸を知るオシャレさんは倉庫街をうろつく

神戸市が行った神戸のイメージ調査によると、「港」が最も高く、次いで「異国情緒」、「おしゃれなファッション」「六甲の山と緑」と続きます。「ミナト・コウベ」のイメージは今でも健在であるのにそのイメージを支える実際の景観は今やほとんど失われようとしています。唯一残っているのがこの新港地区なのです。そしてこの新港地区を歴史的価値の高い場所として支えているのが、旧神戸市立生糸検査所・旧神戸市立生糸検査所新館(両方合わせて今のKIITO)と神戸市税関の建築です。三宮からフラワーロードをずんずん下ったところにあるKIITO。おしゃれなカフェもあるので、ぜひ行ってみよう!



生糸に関する展示も
会議室ではみんなで服を作ってる?
KIITOで実施したいろいろなプロジェクトを説明してもらった



参考 https://www.aij.or.jp/scripts/request/document/20090217.pdf
取材:藤本 崇司